最終更新:2026年4月9日
執筆:三谷はるよ(大阪大学大学院人間科学研究科准教授/ACEラボ代表)
■ 1. 定義(Definition)
Positive Childhood Experiences(子ども期の肯定的体験/肯定的小児期体験)は、
「生後から18歳までの間に経験した、内的および外的な安全感、安心感、そして支援感に特徴づけられ、ポジティブで予測可能な生活の質を備えた好ましい経験」(Narayan et al. 2018: 20)と定義されています。
すなわち、子どもが安全な社会環境と支援的な関係性の中で、安心・つながり・自己価値を感じられる経験といえます。
注:学術論文ではPCE/PCEsと単数形・複数形を区別して表記されますが、筆者は日本語での解説において、ACE(エース)同様、複数形のsを含めて「PCE(ピース)」と統一して表記しています。
■ 2. 学術的知見(Academic Findings)
■ 2-1. 国際的動向
ACE研究が広がる国際的に広がる中で、近年、PCE概念にも大きな関心が寄せられています。
PCE研究のレビュー論文(Han et al. 2023; Cunha et al. 2024; Raghunathan et al. 2024)の結果、以下のようなことがわかっています。
- PCEがポジティブな良好な発達を促進したり、逆境の害から保護するかについての実証研究が急増している
- ACEがあってもなくても、PCEが豊かであると、成人期の健康(とくにメンタルヘルス)やwell-beingが向上する(促進効果)
- PCEはACEの有害な影響を緩衝する(buffering)要因として機能する可能性もある(保護効果)
■ 2-2. 日本でのエビデンス
①ACEとは独立して、PCE(肯定的体験)の累積度は、日本人の成人期のメンタルヘルスの良好さや社会経済的不利の少なさに影響する
出所:三谷(2023: 145)

②子ども期の地域・学校でのPCE(肯定的体験)の豊かさが、日本人ACEサバイバーの成人期疾患(狭心症・心筋梗塞、脳卒中、がん、肺疾患、重度のうつ・不安障害等)のリスクを軽減する
出所:Mitani et al. (2024)
プレスリリース:ResOU

■ 3. 測定指標(Measurement)
PCEは複数の尺度で測定されており、現時点では国際的にも完全に統一された測定指標は存在しません。
ここでは、代表的な尺度をいくつか紹介します。
■ 3-1. 主な尺度
◆ BethellらのPCEs (Positive Childhood Experiences) Scale
- 原著:Bethell et al. (2019)
- CYRM(Child and Youth Resilience Measure)に基づく7項目
- 成人期のメンタルヘルスやソーシャル・サポートとの関連を実証
★ 日本語版PCE尺度の利用について
BethellらのPCE尺度については、日本語版が公式に作成されており、
利用にあたっては申請・許可を得ることで研究利用が可能です。
詳細は以下をご参照:
国立成育医療研究センター
「Positive Childhood Experiences (PCEs) Cumulative Index Measure(子ども期の肯定的体験(PCEs)累積指標尺度)」
https://www.ncchd.go.jp/center/activity/covid19_kodomo/news/PCEs.html
■ 3-2. その他の関連尺度
PCEを測定する尺度として、ほかにも以下が提案されています。
◆ BCEs(Benevolent Childhood Experiences)Scale
- 慈愛に満ちた小児期体験
- 原著:Narayan et al. (2018)
- 項目数:10項目(原版)
- 主な要素:安全な養育者の存在/良い友人/学校での安心感/自分自身への安心感/予測可能な家庭 など
- 日本語訳の許可を得て執筆された論文:Noda et al. (2024)
- さらに10項目を加えた改訂版BCEs scaleもあり:Narayan et al. (2023)
◆ PACEs(Protective and Compensatory Experiences)
- 保護的・代償的体験
- 原著:Morris, A. S., Treat, A., Hays-Grudo, J., Chesher, T., Williamson, A. C., & Mendez, J. (2018). Integrating research and theory on early relationships to guide intervention and prevention. In Building Early Social and Emotional Relationships with Infants and Toddlers (pp. 1–25). Springer International Publishing
- 関連する日本語文献:菅原ほか監訳(2022)
- 項目数:10項目
- 主な要素:無条件の愛情/コミュニティ参加/頼れる大人/十分な食事 など
- 日本語版尺度論文:日比ほか(2025)
■ 4. PCEの構成要素(Key Domains)
代表的なPCE関連尺度には、以下のような構成要素が含まれています。
- 安心・安全な家庭と養育者
- 困ったときに頼れる大人
- 支えになる友人関係
- 学校や地域への帰属
- 自己価値感
- 安定した生活規則 など
■ 5. 理論的背景(Theoretical Foundations)
PCEは以下の理論の統合的枠組みとして理解されます。
- レジリエンス理論
- 生態学的システム理論
- ソーシャル・サポート理論
- アタッチメント理論
- ポジティブ心理学
■ 6. 実践的意義(Implications for Practice)
PCEのエビデンスは、子どもが「安心」「つながり」「自己価値」を感じられる経験を積むことで、回復力が高まり、健康や社会的適応が向上する可能性を示しています。
右表:三谷による考察

子どもを支援する臨床現場や子ども施策の立案において、PCEを知ることには以下のような意義があります。
- ACEがあったからといって、人生が決定づけられるわけではない
- PCEは家庭・学校・地域など「複数の場」で育まれる
- 支援の方向性を示す指針になる
⇒ACE予防・対策とともに、PCE支援(子どもが安心・つながり・自己価値を感じられる肯定的体験を意図的・組織的に提供する取り組み)を!
■ 7. 今後の課題(Future Directions)
- 国際的尺度/日本語版尺度の標準化
- 文化的適用可能性の検討
- 政策指標としての活用
■ 引用方法(Citation)
三谷はるよ(2026)「PCE(Positive Childhood Experiences)とは」
ACEラボ(大阪大学大学院人間科学研究科附属未来共創センター・IMPACTオープンプロジェクト)
https://acelab.site/about_pce/
最終更新:2026年4月9日
